東京以外在住のアーティストに、その土地に住んでいる理由を聴くのが野暮なのではないか、と思えるほどに、音源のやりとりも、プロモーションも、人のつながりも物理的距離を感じさせなくなってきた。Jake stone garageは2002年の結成以来、札幌の地を拠点として活動してきた。活動範囲は日本全国はもとより、韓国や米国での公演、SXSWへの出演と広い。
そのパフォーマンスや楽曲はある意味まっすぐに日本のギターロックの系譜を受け継ぐ。ギターボーカル、ドラム、ベースのシンプルなスリーピース。今回話をきいたワタナベサトシはギターボーカルを務める。Jake stone garageにとって唯一のオリジナルメンバーであり、曲作りの中心であり、つまりバンドの意思を貫いてきた存在である。その彼が2015年2月8日「PICTURESQUE MUISC 〜音のみせる情景〜vol.8」でソロライヴを行う。選んだ演奏形式はサポートにピアノを迎え、歌に集中するスタイル。地元札幌でも過去にほぼなかったソロでのライヴ、なぜ今なのか。
 
 
 

 
 
 

──Jake stone garage(以下ジェイク)のインタビューって見たことないですよね

「あんまりないね。リリースのときにちょこちょことフリーペーパーとかでやってもらったくらいかなあ。 貴重だね。」

──光栄です。よろしくお願いします。

■ソロよりもまず、バンドとしての見え方を確立したかった

──最初にうちの弾き語り企画にお声がけしたのは2011年でしたよね。でもずっと、頑なにお断りいただいていた(笑)なぜいま、ソロでのライヴを決められたのでしょうか?

「けっこうずっと声はかけられてたの。各方面から。でも、まずバンドの見え方、バンドでしっかりみせていきたいというのがあったんだよね。 事務所(札幌のタレント事務所CREATIVE OFFICE CUEの音楽部門)に2007年から所属したんだけど、その前に今回と同じようにピアノで伴奏してもらって歌う形のライヴを1、2回やったことがあった。でも当時事務所に入るにあたってまずはバンドで固めようと思ってたんだよね。」

──へー。それが最近変化したと

「去年(2014年)、ヒデ(ドラム、岩中英明)がいろいろとサポートとかほかの方の音源で叩いてて。(編注:2012年 BORZOIQ、2014年amenoto、戸渡陽太など)司(ベース、西司;laufenなど)もサポートとか、ほかのアーティストの仕事が増えてきたのでよい頃合いかなあと。 ソロ活動ってやっぱり成長するよね。ヒデも司も外の仕事をして肝がすわったと思う。場数踏んだほうが人として成長するんだよね。もちろん楽器にも出る。」

──すでにバンドもしっかりイメージもあるし、個人個人が外でやったことを持って帰れるようなサイクルができてると

「そうだね。 俺はなんというか、ソロをやるならバンドとは別の形でやりたいと思ってて。だから全然違う楽器でやろうと。今回もピアノサポートとやるし。俺が自分でちょっとアコギも弾くかもしれないけど。」

■グルーブがあれば、音数がなくても大丈夫だと分かってきた

──最近バンドでも音数を少なくしていくというか、ベースやドラムだけとか静かになる瞬間も多いですよね

「そうそう。緩急はうまくなった、引き算ができるようになった感じはあるよね。昔は怖かったりっていう気持ちもあった、正直。でも今はシンプルに音数が少なくても、グルーブがあればひとりぽっちになっても大丈夫みたいな。3人ともそこに自信ができてきてる。 今回のワンマン(2014年12月21日、東京・吉祥寺)も1パートづつ入っていく演出で始めたんだよね。最初ドラムがひとりで出てきて、ベース入って、俺(ギター)が入ってみたいな。もうなんかそれぞれがひとりでいても大丈夫、みたいなところがちょっとづつ出てきたかな。」

──それはいつぐらいから出てきたんですか?

「影響が大きかったのは...ここ数年、ツーマンライヴをたくさんやらせてもらう中にnilがいて。で、そのnilの演奏の引き算がすごくうまくて。同じスリーピースとしてものすごい刺激になってると思う。
特に(ボーカルギターの高野)哲さん。大人の渋さとか良い加減の適当さとか雑さとか、前に行くところ、いかないところがあって、弾かないところは本当にちょろっとしか弾かないとか、その緩急がすごい。とくに去年は刺激になったかもしれないね。」

■先輩ミュージシャンに教えられた「自分の武器を持て」

「あと哲さんがね、『サトシ、ソロやんなよ』ってすごい言ってくれてて。」

──それがソロをやる直接的なきっかけなんじゃないんですか?

「いや、どうだろう(笑) ただ、哲さんはいろんな場を踏みなよっていってくれてて。バンドでもそうだし、いろんなところでやるべきだと思う、サトシは特に歌うから、バンドの演奏が無くなった時にでも、ギターなり歌なりで自分一人の説得力あるパフォーマンスができるくらいの方がいい、って。ソロでこのあたりのスキルをサトシがもっと上げるとバンド自体ももっともっとよくなるし、他のメンバーにもよい影響でるから、って哲さん再三言ってくれて。」

──なるほど、それが今のタイミングなんですね。観客として見ていてもすごくタイミングよかったなと思ってて。さきほど出た、バンド外での仕事の影響だと思いますが、2014年の後半にまずドラムが変わって、次にベースが変わったなと思ってて、じゃあギターボーカルのサトシさんはどう変わるの?って思ってたんですよね

「うん。うん。」

■ボーカリストとして作り込んでみたい「歌」

──札幌はバンド・ソロアーティストに関わらず、弾き語りでも活動されている方が多いですし、アコースティック形式での演奏に向いたライヴ会場も多いですよね。いろいろな方の活動を見る中で、自分のソロに対してイメージしてるアーティストなどはいます?

「俺が好きなのは。んー誰だろう。...畠山美由紀さんとか、徳永英明さんとか。ああいう方々のライヴは動か静でいったら静じゃない?だけど静の中にある大人の凄みというか、うねりというか。そういうところがすごいと思ってて、俺も年いってきたし、そういうところが出せればなあと思ってる。 今回のソロは、泣ける感じの選曲にしたいなと思ってて。年をとると経験値が増えて、(他人の気持ちや出来事に)共鳴しやすくなるというか。そういうのあるじゃない?だからそういう表現が俺の中にもあると思うんだよね。そういう側面もだせればいいなあと。」

──それはたとえば10年前や、2011年に最初に弾き語りイベントにお誘いしたころには考えてなかった?

「あーそれはもう。全然考えてなかった。7年前にやったときも、まあいっちょやってみっか、くらいだった。」

──そもそもバンドでもアコースティック自体をやってないですよね?

「やってないね。去年(2014年8月、吉祥寺タワーレコード)インストアでやったくらい。 なんかねけっこうね、アコースティックっていうよりも、なんか最近は歌が前より楽しくなってきてて。歌うこと自体が。だから、今回は削ぎおとしてみようかと思ってて、歌とメロディとピアノだけ、みたいな。 楽器持たないで人前に出るって俺ほとんどないからね。」

──それ怖いんですか?

「いや怖くはないけど、面白いかな、って。 武器一個なくなるけど、その歌の楽しさとかが最近感じるようになってきたので、集中してみようかなって。」

■歌を試しはじめたら、楽しくなった

──歌に集中しようと思うきっかけになったライヴとか楽曲ってあるんですか?

「難しいなあ。 去年発売した会場限定音源の「幻」って曲とか、2枚目のほうに入っている「魂のゆくえ」という曲を録音するときに、自分の中では新しいことをやっていて。ビブラートとか、トリルとか。(細かい技法を入れ込むことを)あんまり今まで歌の中ではやってなかったんだけど、やってみたらけっこう面白くて、自分の中でももうちょっとやってみようかなって思った。」

──その自主の音源って演奏もボーカルも同時に録音するバンド一発録りなんですか?いつも一発ってイメージありますが

「バンドは一発で、歌だけあとから別で録った。 これまでは歌もバンド演奏と同時に録ってたんだけど、今回環境的に一緒に録音できるブースがなかったの(笑) でも逆に歌に集中できて面白かった。レーベルマネージャーに新しく安田史生さんがきて、歌い方をもう少し考えてみたら?ってディレクションをもらったんだよね。それも影響してる。」

──楽曲の作り方でも歌に集中するみたいなところがでてきているということなのですか?

「そうそう。 それがちょっと前とは違うところはあるかなあ。前っていっても前回の音源が大分前だからね。2年前。」

■バンドとソロは別、積極的に新しい変化を楽しむ

──今回はピアノサポートにKAGEROの菊池智恵子さんが入られます。
KAGEROはJAZZをベースにしつつ、かなり轟音で激しいサウンドのぶつかるバンドですが、智恵子さんご自身はクラシックをルーツとされる方で、アプローチとしてはいろんな方向が考えられますが、ピアノアレンジはどのように作っているのですか?

「やりとりしてて、彼女はKAGEROの演奏の通りすごくテンション高いから、任せるとそういう感じのものができるよ。 クラシックって俺はちゃんと通ってないんだけど、振り幅広いじゃない。すごい武器だと思う。」

──このジャンルっぽく、たとえばジャズっぽい感じとか、コード弾きでやるとかイメージ的な指示はしたんですか?

「いやまずは好きにやってみてって。したらやっぱりね、彼女のKAGEROの感じ?爆裂感?どっちかっていうと元気な感じになるよね。まあそれはそれでいける曲もあるし、静かな中にあるうねりとか、そういうアレンジもやってみたいんだよねっていうのを話したら、ちょこちょこ、改めて音が送られてきてる。 ライヴ全体を通していちばんベストな感じできけるようにしようと、今選んでる。」

──今回ソロライヴで演奏する曲は、オリジナルとカバーで半々くらいということですが、オリジナルはすべてジェイクの曲なんですか?

「今のところね。
ちえちゃんとやりとりしてる中で、新曲作ろうよって言われてて。『おお、そうだな』って。俺が今そこまで手が回ってないから『うんうん、わかったわかった』って言ってて(笑)
あとジェイクで作ったけど出してない曲とかね。」

■影響を受けたのは、ミッシェル、ブランキー、Oasisとか

──音楽的な背景をお伺いします、楽器は何からはじめたんですか?

「俺はベース。高校のときに友達に誘われてBUCK-TICKとかやってたよ。ユニコーンとか。で、学祭に出るみたいな。 ジェイクの前に2年くらい3ピースバンドやってて、そのときにギターボーカルを始めた。」

──歌い始めたのもそのときですか?

「そう。なんか曲作るのが楽しくなって、で、2年くらいやってやめてジェイクを始めたの。」

──ギターを抱えて弾きながらメロディを探すっていう曲作りのスタイルはギターボーカルはじめたころからあんまり変わってないってことですね

「そう。ギター持ってじゃんじゃんやりながら歌うっていう。ほんとギター抱えて部屋の中うろうろしながら考えるから、それは人に見せられたものじゃない(笑)」

──スリーピースのバンドを始めるにあたってイメージしてたバンドはあったんですか?

「やっぱり、Thee Michelle Gun Elephant、BLANKEY JET CITY、あたりかな。あとはOasis、でもあれはスリーピースじゃないね。集団行動苦手なので人数減らしたいっていうのもあったかな(笑)」

■メンバーと、スタッフと、お客さんと、音楽を共有することで何かを生み出したい

──バンドは続けること自体がいちばん難しくないですか?

「難しいよね、バンドって。でも超面白いでしょ。 要は人と人だからさ、こっちが変わったらさ、相手が変わって、相手もそれを感じたらまた変わっていくわけでさ。生身のひとがやるのはそれが醍醐味なのかなあって思ってる。」

──ジェイクはメンバー変わってったりして、同じ名前で続けなくてもいいのかなあっていう局面もあったんじゃないかなあって思うんですが...

「そうかなあ?」

──...傍目からみればですよ?でも続いてるのってなんでなんですかね?

「なんでだろうね?」

──やめようと思わなかったってことですよね?

「しょっちゅう思うよ。今後どうなるかは誰にも分からないわけだし。ほんと常にそうよ。面白くなったり、つまんなくなったりの繰り返しだよ。」

──もう10年以上やってきて、面白いの次につまんないがあってもまた面白いがある、という繰り返しがあるっていうこと自体を分かってるってことなんですよね?

「ああ、そうだよね。すごく長く続いているバンドだってさ、紆余曲折あってやってきてるよね。一回活動休止してソロ活動して、また集まってやったりとかさ。 やっぱり音出して人と遊ぶのが楽しいのがバンドだから。 あとは、バンド名変わっちゃうと昔の曲ができなくなっちゃうんだよね。それがさびしい。」

──2014年(去年)、本州のライヴが多かったです。なぜですか?

「お誘いの数も東京の方が多いのもあるし。まあやっぱり東京で集客増やしたい。攻めたいというのもあって。」

──2015年(今年)は?

「ちょっとどうなるか分からないけど、今いろいろ練っているところだよ。」

──なんでもやってみたらいいですよね

「そうだよ、なんでもやってみたらいいんだよ。」

──音楽で食べていかなくていいですか?

「いや、俺は食べていかなきゃと思ってるよ。 でも根本的には人とか世の中に楽しんでもらいたいと思ってて。バンドであったりソロであったり、ビジネスの話でいうとCDの流通があったり、聞き放題サービスがあったりとか、いろいろあると思うんだけど、もともとの目的は、やっぱりひとがひとを楽しませるとか、喜びを共有するとか、そういうことだと思う。 だからその受け手と発信者(を媒介する)の間のことは時代時代でかわっていくけど、クリエイターとしてはその原点をちゃんと持たないといけないよね。エネルギッシュに作品なりライヴなりで表現したいなって。 だから今回ソロやるけれども、バンドでもソロでも根のところは何もかわらないんだよね。」

──音楽って自分の手許で弾いたり作ったりするだけで完結することも可能じゃないですか。そうじゃなくてライヴでも音源でも自分から外にだすことによって何かと反応することを求めてるってことですね?

「そうだね。それがいちばん楽しい。 反応する、いちばん近いのがメンバーだったりするわけじゃない。スタッフだったり。さらに顔も名前も知らないひとが音をきいて反応してくれたら素敵だよね。嬉しいよね。」

──じゃあジェイクもサトシさんも、音楽的にもっともっと変わっていくかもしれないですね

「うん。変わってったほうが面白いよね。だって人間は変わっていくんだから。 今、(通信インフラや音楽制作の環境の進化のおかげで)どこに居ても一緒に音楽できるしね。俺個人は住む場所は本当はもっと田舎がいいの(笑)」

──今回(2015年2月8日)対バンするBUGY CRAXONEのすずきゆきこさんは、2007年にはBUGY CRAXONEの笈川さんにプロデュースしていただいている縁もあり、ジェイクで何回も対バンして演奏をご存知ですよね

「ちょうど去年東京でツーマンやらせてもらって、札幌でも以前ツーマンやらせてもらってね。 でも自分の中でゆきこさんは昔のロックなBUGY CRAXONEのイメージ。ここ最近の音源2枚くらい雰囲気が違うから、なにか彼女のなかで心境の変化があったんだと思うんだよね。そこが何なのか見てみたい。弾き語りになって、彼女のどういう部分が表現されるのか気になる。」

──最後に2月8日、初の本格的なソロライヴに向けてひとこと

「せっかく今回よい機会をもらったので。みんなに楽しんでもらえるように、俺も楽しめるようにやれればいいかなと思ってます。」

 
 
 
 1時間半ほどのインタビューは、ここに書ききれないほど話題が多岐に渡った。作曲方法、音楽ビジネス、果ては最新のVR技術についても。
 「ソロで音源作らないんですか?」と聞くと「将来的にはやってもいいんじゃない?今は目の前のことでいっぱいいっぱいになってるからさ。」と返ってきた。札幌からアーティストを呼び続けているわたしたちイベンターにとってはある種ひとつのカテゴリー化している”札幌”についても、目の前の創作意欲とパフォーマンス欲求のもとには意味のない地名のラベルでしかない。アーティストとしての根源的な部分に触れられたインタビューだった。
 2015年2月8日、どんな表現を見せてくれるのか、とても期待できそうだ。
(Written by Event producing and creation unit d'or/Staff S/2015.1.8)
 
 
 
東京・三軒茶屋「GrapefruitsMoon」にて開催
2015/2/8(Sun) PICTURESQUE MUSIC Vol.8
ワタナベサトシのほか佐々木健太郎(アナログフィッシュ)、すずきゆきこ(BUGY CRAXONE)、アリソネ出演!
 
 
関連リンク
>>Jake stone garage オフィシャルサイト
>>ワタナベサトシtwitterアカウント




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