バンドと違う世界を一人でどこまで創れるかという挑戦
 2010年に10周年を迎えた札幌のロックバンド「OLD」のボーカル&ギター、品川洋。結成からほどなくしてメジャーデビュー、その後自主レーベルでの活動に移行する。バンドの編成はギター、ベース、ドラムの4人。憂いを含んだ情緒に訴えかけるメロディと声質。そしてそれを支える確かな技術とグルーブ感を持ったバンドである。
 そのOLDでは作詞作曲のほとんどを手がける彼が、ソロ活動を始めたのは2009年。バンド的にも大きな変化を迎えた年であった。長年バンドで活動してきた彼が、ここへきてソロを始めた理由、そしてその醍醐味。OLDはメジャー時代から一環して札幌を拠点として活動してきた。初となる東京でのソロライヴに向けて、”考えていること”を語ってもらった。


 

──そもそも音楽的なルーツはどこにあるのでしょうか?

品川 僕は兄が居て、小学生のときに彼が家でCHAGE&ASKAや長渕剛をかけてたんですよ。だから僕はチャゲアスや長渕をめっちゃ歌ってる子供でした。ひとり遊びでメロディ作ったりはしてました。バンドとしてはUKロックに影響を受けています。
 それから、小さいときに鼓笛隊に入っていたんです。はじめに楽器やったのはここでです。ベルとか、横笛とか、小太鼓とか、そういうのを演奏しながらやるマーチングバンドってやつですね。意外とその影響は大きいかもしれない。10日間とか合宿して練習するんですよ。朝から晩まで練習して、最後にみんなで発表会する。このときに音やリズムの感覚は染み込んだんじゃないですかね。

──OLDを結成する前にもバンドはやっていたんですか?

品川 いや、特になくて、ただ友達の前で弾く、みたいなことはやってました。中高生のときって友達のうちにたまったりするじゃないですか。ああいうところで、自分で作った曲を披露したりとか...初めて自分で買った楽器はウクレレですね。中学生だったので、やっぱりギターとかは高いじゃないですか。だからウクレレ。教則本とかも買ってきて、それで藤井フミヤの「TRUE LOVE」をコピーしたのが最初です。人生初の弾き語りはウクレレで「TRUE LOVE」(笑)

■「ボーカリスト」としてのバンド活動、すべてを1人で表現するソロ活動

──OLDの中での品川さんの立ち位置はどのようなものでしょうか?

品川 OLDはギター、ベース、ドラムのいる4人のバンドです。作詞作曲はほとんど自分で手がけていて、ある意味、バンドがフォローしてくれるというか、作曲に集中させてもらっています。自分を中心にしてよくケアしてもらっている、という感じはします。その一方で、演奏では自分もギターを抱えながらも、比重としてはボーカルに重きをおかせてもらう、パフォーマンスに集中させてもらっている、とも思います。

──歌うこと、に集中している?

品川 そうですね。バンドを始めたころは僕もギターソロを弾いていたりしたんです。でもやはり僕はボーカルなので歌わなければならない。もう1人、ギタリストがいるという場面でやはりギターソロのようなものは彼に移っていきました。結果、僕はバンドの中では和音と上のリズム、厚みを持たせるための音を出すギターをひいています。

──ソロでは完全にアコースティックギター1本での弾き語りですね

品川 去年、初めてソロライヴをやるにあたってものすごく不安だったのは自分のギターだったんです。さっきも言いましたけど、OLDというバンドの中では少しくらい僕がギターをひかなくたって演奏が成り立つんです。ギターが別にいるバンドだとよくあると思いますが、ギターから完全に手を離して(ボーカルに集中して)しまっても大丈夫なんですよ。よく言えば歌に専念してる。でもソロだと、伴奏は全部一人でやらなくてはならない。ベース音、リズム、装飾的な音、和音、ギターソロ。どうやってそれらの要素を表現していくか、というのはすごく楽器の練習になりました。

──品川さんにとって、アコースティックギターとは?

品川 一番、身近で一番長い時間を一緒に過ごしている楽器です。家でひくのアコギだけです。日常的なのはアコギですね。エレキはアンプつながなくちゃいけなかったりして家では練習しにくいですし、やっぱり包みこむような音ではないじゃないですか。
 曲を作るのもアコギです。弾いていてもその楽器そのものだけで気持ちがいい。癒されます。自分の感情をストレートに出しやすいんです。そういう意味ではアコギのほうが好きですね。

──10年間バンドをやってきて、なぜここ2年でソロでやろうとしたのでしょうか?

品川 自分のやりたいことを突き詰めたらどうなるんだろう、と思いました。バンドという組織の中ではやはり、自分で作詞作曲していてもやはり作品としてはバンドのものなんですね。音を作り上げて行く過程でメンバーの意見が入るというのもそうだし、演奏するということ自体も。ひとりでやった時に、どこまでやれるんだろう、何ができるんだろうという思いはありました。
 それからソロでは、かなり自分の好きなようにやっています。バンドももちろん自分のやりたいようにやるのですが、長年演奏する中でやはりお客さんに楽しんでもらいたい、という思いが大きくなっています。曲順にしても、ソロでは自分で思った通りに並べてみて、バンドでやるときほどは考えずに思った通りに作っています。もちろんちょっとここはお客さんにきついかな、とか思った部分については直したりしますが。(バンドでのライヴと同様に)ソロでもエンターテインメントの要素を追求してしまったら、バンドをやる意味が分かんなくなりそうな気もします。
 2009年に東京の事務所を離れて、自由にやりやすくなったというのもあります。別にそれまで自由にできなかったということではないのですが、やはり一度会社に相談するという手間は、小さいですが壁でした。
 事務所を離れたあとは、バンド活動、音楽に対する姿勢そのものを見直す時期でもありました。自分でライヴというものを”やってみたい”というのもありました。個人的なことを言えば、僕はバンドの中でどちらかというと、ありがたいことにマネージメント関連の作業からは離してもらっていたんですね。事務所を離れても積極的にブッキングやイベントを考えるのも割と他のメンバーだった。だから、自分で場所を押さえて、お店の人とやりとりして...というその辺を全部経験してみたいというのもありました。

──2009年、2010年と実際にソロライヴを開催してみていかがでしたか?
(編注:このインタビューのあと、2011年1月にも開催)

OLD

品川洋が活動する札幌のロックバンド「OLD」(オールド)

品川 手応えがありました。
 はじめやるときにはすごいびびっていたんです。とにかく自分ひとりしかいないし、アコギ1本だから、すべてを自分で表現しなければならない。それこそブレスのひとつまでお客さんに聞こえる。
 精神的にも自分と向き合うことになるし、人間的にも向き合うことになりました。

──嫌になったりしませんでしたか?

品川 いや、快感でしたね。
 バンドでは、すべて自分の思う通りにはいかないんですね。それは当たり前で、メンバー1人1人に、こうしたほうがいいと思う、と提案したってすべて受け入れられるわけではない。そうやって曲を作っているわけです。でもソロだと、自分で出したダメだしはすべて自分で直せる。ある意味自分の意識の中心にとても近づいていける作業だったと思います。

■歌詞の持つイメージ、表現すること

──ソロ活動の中で、OLD以外のバックバンドで歌ったり、他人とコラボレーションしたりということはないんですか?

品川 札幌に梅本多朗くんという自分で弾き語りもするけどコンポーザーみたいな感じで活動している人がいるんですね。で、先日彼のライヴに呼ばれてピアノを伴奏に歌ったんですよ。すごく気持ちよかったです。普段はギターをバックにして歌っているのでとても新鮮でした。
 (他の人とのコラボレーションは)あんまりないと思います。人見知りするし、他人と合わせるのが下手なんですよ。OLDでもみんなが色々合わせてくれる感じなんです(笑)

──他の人の作詞作曲で歌うと違いますか?

品川 まったく別物です。他の人の曲だと見えない景色があります。自分の作ったものだと100%以上の景色がすでに見えた状態で歌っている。その曲のポテンシャルをすでに知ってるんですよ。
 たとえば「空」っていう言葉を言ったときに、自分でかいたものならどの空か分かっているじゃないですか。それが強い記憶なら残っているじゃないですか。思い浮かべられるから、表現としてはすごく楽なんです。他人の歌だと、自分の中でリンクした部分を引っ張りだしてきて、歌いながら咀嚼してそのときどきで理解したり感じたりしているという感覚が強いですね。

──自分で作るときには体験したことからイメージしているのですか?

品川 そうとも言えるしそうでもないという気もします。100%体験したことっていうのもないと思うし、100%体験していないということもないんですよね。
 書いていても、どこまでが本当に体験したことなのか、分からなくなることがあります。果たして「体験」というのはどこまでのことを言うのか、という疑問があるんです。体験ていってもこれは自分の中の勝手な「事実」じゃないですか。同じ景色を見ていても人によって「体験」は違いますよね。何がどこまでが現実で、自分の中で妄想で行った行動とか言った言葉とかも自分にとっては事実というか。

──物理的に体験したかどうかに関係なく、書いているときにはもう体験した気持ちになっている?

品川 最近は特に本当に体験したことをベースに書こうとしています。だんだんそうなってきた。経験の蓄積が、絶対量が年をとるにつれて増えてくるというのもあるし。そうするとそれを表現したいという欲求が高まってくるし。これを吐き出さないと不完全燃焼感があって。
 (自分自身について、詞について)過去の自分と比較することは、タブーにしています。自分というものとか、自分の「思考」に対して不信感があるんです。センチメンタルな気持ちとか、ネガティブな気持ちだとか、閉じた自分の中での世界観や思想を甘やかさないようになってきました。
 特にネガティブなことを考える時間は減ってきました。飽きたんだと思います。悩みから這い出るような構造の詞を昔書いてきたとしたら、同じようなのを書いてたらやっぱり飽きるし。無意識に自分が避けているのかもしれません。
 例えば、若いときには答えの出ないことをたくさんいつまでも悩んでいたと思うんですよ。それはみんな楽しんでるんだと思うんです。それで悦に入ったりする。10代ってそういう時期ですよね。でも今はそれはもう悩んでも出口はないということを知っている。今はもうそういうことに飽きたのかもしれません。

■10年創作してきて「自分と音楽の関係が成熟した」

──10年作詞作曲をしてきて、感情を形にして残してきたから、それは消化されてきたのでしょうか?

品川 そういう部分もあるかもしれません。
 一方で音楽は時代とともに変化しています。誰かがもしかしたらコントロールして流行を作り出している側面もあるかもしれないけれど、基本的に時代に応じて変わって行く。同じ「ジーンズ」というものでも、時代によってデザインが変わって行くように、中身は同じでも、見せ方を変えるというのは楽しいかもしれません。

──時代が変化すること、自分が成長することに呼応して品川さんの曲も変化している?

品川 最初は自分のために作っていたんです。ただ書くことによって楽になるというのがあったから。元々自分のために書くことが創作の原点だったように思います。
 音楽に自分のすべてを押し付けていました。でももう、自分と音楽の関係が成熟したんでしょうね。今は自分ではなく、音楽が何を求めているのか、自分がそれに対してどう対応するかで曲を作っていると思います。

──ソロ活動含め、今後やっていきたいことはありますか?

品川 今ある形が、大きくなっていけばいいなと思います。
 ソロでしかやらない曲を音源化するということも将来あるかもしれませんね。過去2回のソロライヴでは、イベント名のタイトル曲はそれぞれオリジナルですから。このほかのソロでやった曲はOLD(バンド)でやる可能性もあります。
 来年(2011年)はソロを増やしてみたいですね。生声でやってみたいんですよ。
 2011年はそうやって、バンドの活動と並行して(札幌で)ソロライヴを何回かやりたいですね。



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2011/4/22 PICTURESQUE MUSIC Vol.1

 

関連リンク
>>OLD オフィシャルサイト
>>品川洋ブログ「『無人島の朝焼け』日記


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